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寄稿 セクシュアルライツ教育実践

寄稿 現代性教育研究月報6月号 (財)日本性教育協会

セクシュアルライツ教育の実践

?一人ひとりのかけがえのない「こころ」と「からだ」?

NPO法人SEAN 教育部門「G?Free」代表 遠矢 家永子

ジェンダーの視点に立つ取り組み

 SEANは1997年に結成し、2001年に法人格を取得した男女共同参画分野の事業に取り組む非営利市民団体です。1994年から年間10回程度の学習会を開催していた大阪府高槻市委託女性学級「かまどねこの会」の学習会時に、保育が必要になったことがきっかけに誕生しました。当時、専業主婦となった多くの女性たちは、「家事」「育児」だけに専念しそんな自分自身に自信が持てず、力をなくしているといった現状がありました。そこで「家事」「育児」の経験を「キャリア」として位置づけ、そこに労働対価を発生させ、社会で認められる体験を通して自信をなくしている女性たちをエンパワーしていくことを目的に保育システムを事業化しました。保育事業の延長線上で、2001年に助成金事業「子育てママのグチグチ電話相談」並びに、「子育てママのおしゃべり広場」などの子育て支援事業に取り組みました。そこでもまた、母親役割や嫁役割といったジェンダーの抑圧と出合いました。うまく子どもと関われない自分を責め、不安と罪悪感で自尊感情が低くなり、母親同士でお互いを攻め合い、そして子どもまでも追い込んでしまう、それらの問題は母親である自分が無能であるからと、一人で抱え込み落ち込んでいる母親たちとの出会いでした。

 小さな頃から着込んでいく、ジェンダーの根深さと直面したことで、無自覚のままジェンダーにとらわれてしまう前に、ジェンダーの視点について学び、あるがままの自分と向き合っていくことの必要性と重要性を確信しました。その翌年には民間助成金に応募し、中学生を対象に「ジェンダーと暴力」をテーマとした人権教育プログラム(現SEAプログラム)の開発を手掛けました。それ以来、学校などの教育機関からの依頼ニーズに応える形で、未就学児・小学生・中高生など年齢別のプログラムを開発していきました。また、「デートDV」「セクシュアルライツ」など、テーマを絞ったプログラムをという依頼も増え、根底にあるジェンダー問題を中心軸に据えながらプログラム内容を増やしていきました。2007年には企業の協力も得て小学生対象のDVD教材を制作し、そして今年度は助成金事業として、未就学児から小学生低学年対象のパネルシアターを使用したワークショップのシナリオを、誰でも使用できるよう教材化する予定です。

子どもたちの性意識の背景にあるもの

 2006年、ある中学校の先生から全部で6時限予定している「性教育」の連続授業の2時限目に、「性」に関するワークショップを実施してほしいとご依頼いただきました。当初は「性」の授業を請け負うにはあまりにも科学的な専門知識に乏しく、まだまだ勉強不足であるとの思いがあり、お引き受けするかどうか悩んだことを覚えています。しかし、ご依頼いただいたのは性に関する知識の授業ではなく、「ジェンダー平等」「性の多様性」など、ありのままの自分を受け入れるための基本的人権としての「性」についての授業だということだったのでお引き受けすることにしました。それが、「セクシュアルライツ教育」に取り組み始めるきっかけとなりました。

 「性暴力防止のための性教育に取り組みたい」というNPO実践者はたくさんいます。しかし、「性」とひとくくりに言っても、切口はとても多様で、年齢に応じてとなるとさらに難しさが増します。これまでの経験から、教育関係者であっても「性教育」に関するイメージはまちまちであり、統一見解には至っていないのではないかとさえ思えます。実践者となる大人たちの多くは、子ども時代に「これぞ性教育」といった授業を受けた経験を持つものが少なく、昔とは比べ物にならないくらい性情報が氾濫している社会状況の中で、子どもたちの前に立ちながらも日々模索しているのが現状なのかもしれません。

 以前、大人を対象に「性からイメージするもの」というワークショップを行いました。下記がその時出された意見です。

人生・命・人間・自分・思春期・更年期・老人・いつまでも現役・性格・人生を決定するもの・恥ずかしい・いやらしい・隠すもの・口にしにくい・言ってはいけない・秘め事・SEX・中絶・バイオエシックス・ジェンダー・異性・初恋・結婚・産めよ増やせよ・服装・楽しみたい・暖かい・たおやか・ワクワク・快楽・肌のぬくもり・語り合い・つながり・お金 など

イメージされることが非常に多面的で、良いイメージから悪いイメージまで幅の広い内容でした。この時の参加者は、比較的「性」という言葉に関して免疫のある関係者の集まりで、そういった関係にはない一般のみなさんの集まりが対象となると、もう少し良いイメージが少なくなるのではないかと思われます。

では、今どきの子どもたちは「性」という言葉をどのようにとらえているのでしょうか?2007年に高槻市教育委員会との協働事業として、SEANが取り組んだアンケートの結果は次のとおりです。

Q.あなたが「性」という言葉からイメージする言葉を選んで〇をしてください。(複数選択制/公立中学4校:2年生?3年生/約400名)

別の質問項目の「恋人とのつき合い方」に関する情報源が友だち・テレビ・マンガ・雑誌であるという結果と照らし合わせると、これらのイメージは子どもたちが意識的に選び取っているイメージではなく、漠然と既成概念やメディアからの情報の影響を受け、無自覚のまま取り組んでいるイメージであるのだろうと思います。「恥ずかしい」「いやらしい」「エロイ」といったイメージは、大人社会が、特に日本という国の大人社会が「表現の自由」「職業選択の一つ」として容認してしまっている「女性性の商品化」や儲け主義の「性風俗産業」の影響が子どもたちにも及んでいることの現われなのだろうと危惧します。

子どもたちをとりまく現状に合わせた教育の必要性

以前、ラブホテル街が校区内にある小学校で、「セクシュアルライツ教育」の出前授業を請け負ったことがあります。終了後の保護者のみなさんとの懇談で、「小さい頃はお城のようなラブホテルを見て、『ここに泊まる!』と言っていた子どもが、いつの間にかその言葉を口にしなくなりました。きっと、子ども同士の情報交換で『ラブホテル』の意味を知ったのだと思います」と話されました。その周辺には性風俗のフリーペーパーもあちらこちらに設置されており、風俗関係のお店も幾つか目につきました。女性担任が「起立!」というと、「どこを?」と笑いながら聞き返す男子児童もいるというお話でした。このような児童からのセクシュアルハラスメントに対し、どのように対応すればいいかを一人で抱え込んでおられる先生と出会って、地域によっては国の指導要領だけでは補い切れない現実があることを知りました。今や、小学生も携帯を持ち、パソコンを操作する時代です。「性の商品化」や「暴力的な性描写」を興味本位で入手してしまう危険性と、興味などないのに一方的に送り届けられる「性情報」によって、性に関するイメージがどんどん貧困化し、嫌悪感が増していくだろうことは想像がつき、何とかしなければとの思いは強くなっていきます。

 しかし、実際にはそんな不安な現実ばかりでもなく、予防教育の授業で出会う多くの中高生たちは「からだの変化への戸惑いや不安」や「両想いへの淡い憧れや期待」などを持ち、教育の機会さえきちんと保障すれば、多くの子どもたちが「性」に関する肯定的なイメージを持つことも可能であることも体感してきました。その一例として、授業実施後の中学2年生の生徒の感想をご紹介します。

性のことは全然興味がありませんでした。でも、将来のことを思ったら正しいことはちゃんと知っておかないといけないなと思いました。いろんな言葉とかしらないことがたくさんありました。避妊とか、ジェンダーとかは知りませんでした。でも、知っておかないといけないことがたくさんあって、それは大切な事で、自分の身を守ったり、相手を傷つけないようにするために大切だと知りました。学年のアンケート集計や、みんなこう思ってんねんなぁと思いました。同性愛の人や、性同一性障害の人を、心ない言葉で傷つけてしまったり、差別をしてしまったりしてはいけないと思いました。尊重する事はお互いを認め合うことだと知りました。

ようやく問題視され始めたデートDV

 最近では、高校でのデートDV予防教育の依頼も増えつつあります。SEANのワークショップは、生徒たちの意識を把握するためにまず事前アンケートを取り、その意見集計を教材とし、客観的に読み解くことで授業を進めていく方法を取ります。 「恋人になったとき、相手から束縛や自分のもののように扱われることについて」という質問では、中学生の女子20%・男子15%が「いい」と肯定しました。

高校生を対象にしたアンケート(高校4校・1?2年生・約730名)でも、「恋人関係になれば、自分のことを優先させるよう相手に強制することも愛情だと思いますか?」という質問に、男女ともに10%の生徒が「思う」と答えています。

また、高校生には「恋人関係になれば、相手からのキスなどの性的な欲求にこたえるべきだと思いますか?」といった質問もしており、男子46%・女子33%が恋人からの性的欲求には応えるべきだと答えました。

 2008年度SEANでは、中高生がよく読んでいるマンガ誌や情報誌の性情報を調査分析し、「マンガ・雑誌の『性』情報と子どもたち」という報告書を発行しました。(A4判102頁/2008年SEAN発行/1800円)生徒たちの「性の教科書」となるマンガ誌や情報誌には、「あなたはわたしのもの」「わたしはあなたのもの」といった束縛し合う関係こそが、愛情の深さを測る尺度であるというような表現がたくさん出てきます。大切にされることと、自由を奪われ束縛され自己決定権までも奪われることの違いを、感覚と知識で識別できる力が必要です。そのためには、子ども期に大人社会からあるがままを受け入れられ尊重される心地好さをたっぷり体感すること、そして学校教育の場で人権感覚を養う人権教育を受けることが子どもたちを被害者にも加害者にもしないためには必要なのだと思います。

クラスに蔓延する同性愛嫌悪といじめ

 SEAプログラムの実施前のアンケートでは、次のような質問もしています。「もし、あなたの親友が同性愛者だったらどうしますか?」その結果集計は、?尊重する2%?応援する8%?避ける13%?関わらない14%?やめさせる10%?気にしない45%?その他8%でした。(中学4校約400名・2005年)(「人として強くやさしく」A4判174頁/2007年SEAN発行/2000円)自由記述には「気持ち悪い」「嫌だ」「怖い」「人間としておかしい」という言葉が並びます。たった1時限の授業だけではその嫌悪感を拭い去れないほど強固な差別意識に出合うこともあります。クラス全体を観察していると、それがいじめに発展している場合も見受けられ、メディアによって歪められた情報やジェンダー規範を覆す人権教育の必要性をここでも強く感じます。

「こころ」と「からだ」でしっかり感じよう

様々な年齢の子どもたちと出会って気づくことは、4歳くらいからジェンダーのとらわれを着込んでいくという現実です。「女の子はかわいいく素直に!」「男の子はカッコよく、泣いたらダメ!」。親からの評価、メディアからの受け売り、友だちからのからかい。その中で子どもたちはあるがままの自分自身が何を望んでいるかではなく、どう評価されるかといったジェンダー規範でアイデンティティを確立し、大人に向かって生き方を選び、友だちとの関係を作っていきます。

自分自身が感じているはずの心地好い「こころ」と「からだ」の状態のことなど考えたことがない子どもも多く、「うれしい」「楽しい」「辛い」「悲しい」という感情が自覚できていない、あるいは自覚できていても周りの目が気になって表現できないといった子どもたちが目につきます。

SEANが取り組むセクシュアルライツ教育では、まず自分自身の「こころ」と「からだ」で感じている「心地好さ」と「不快感」の違いに気づくことから出発します。そして、少数派に焦点を当て過ぎてセクシュアリティを第三者として他人事にしてしまうのではなく、自分自身のセクシュアリティと向き合い、その延長線上でどの人のセクシュアリティも尊重されるべきであるという視点に立つ人権規範を学んでいきます。

子どもたちが育ちの中で必要とする5つの権利

教員を対象とする研修を依頼される際に、自分たちの指導案に意見が欲しいと言われることがあります。多くの指導案は典型的な男女のからだの変化を教え込むことや、命の尊さや性に関わる様々な疾病、避妊や妊娠についての知識を提供する内容が中心で、性の多様性や自分自身の性を主体的に感じ、選びそして結果を引き受けていく権利についてなどが盛り込まれている指導案はとても少ないです。からだの変化の典型的な男女差のみを強調すればするほど、性の多様性が否定され、ジェンダーの刷り込みが強化されていくのではないかと心配になる指導案も存在します。性別が異なっても共通点がたくさんある事や、個人差もたくさんあり、典型的な変化だけが全てではなく誰ものあるがままが尊いのだと教える必要があります。

 子どもの立ち位置から見れば強者の位置にいて生命線を握っている私たち大人は、子どもたちの未来に対して大きな責任を負っているはずです。まず、からだの成長に欠かせない衣食住の権利を保障すること、そして、自己選択と自己責任の繰り返しによってアイデンティティを確立し、自律した大人に成長していく手助けが子どもたちには必要です。それらの手助けを子どもが持つ権利として捉え、大人たちが子どもたちに保障すべき5つの権利として、それを授業の中でも取り入れます。

? 存在意義を認められる権利

? 知る権利

? 考える権利

? 選ぶ権利

? 結果を引き受ける権利

 歪められた情報が氾濫する社会の中で、正しい情報を提供していくことはとても大事なことです。その上で自分の手で選び取っていく力と、責任を引き受けていくたくましさが必要なのだと思います。

教育現場の現実

数年前、バックラッシュの流れの中で、熱心に性教育に取り組んでおられた大阪府吹田市の中学校教員がつるしあげられ、露骨なスケープゴートが行われました。その動きに対して、見えないお化けを恐れるあまり、教育行政の自主規制が起こり、未だにその空気が残っているようです。

しかし、実際には自主規制というよりも、予算が無いことやゆとり教育の見直しによって授業時間の確保が難しいということ、それを押してでも取り組むことを躊躇する意欲のない教員仲間の非協力・無関心や足引っ張りなどがネックとなっているのではないかと懸念します。

そんな中、子どもたちへ性教育に取り組むべきだと感じつつ苦悩しておられる先生たちから、「どうすればいいでしょうか?」と問われることがあります。「いかなる状況であっても、子どもたちの未来に責任を持っている大人である以上、やるべきことはやるべきでしょう。私たち民間との協働で少しでも取り組みが進められるのであれば、一緒に頑張りませんか」とお話しています。子どもたちの未来のために、今後も性教育が進められていくよう協働していければと願います。

ここで、子どもたちにとって性が豊かで素敵なものになることを願って、授業で伝えている言葉を紹介します。

恋をするということは、その人にしかない「よさ」にひかれること

もっと近づきたい 毎日会いたい その人に認められたいって思うこと

恋人同士になれて ずっとなかよくしたいなら

互いの存在を大切にし 成長を応援し 安心し合える関係をつくろう

気持ちを伝え合って 受け入れ合って 尊重し合おう

それが共に生きるということ それが愛し合うということ

おわりに

今回、原稿依頼のお話をいただいた時、お引き受けするかどうか少し迷いました。それは、SEANが性教育に特化して活動しているNPOではなく、性教育も多いと言えるほどの実践数があるわけでもない上に、SEAN以上に精力的に性教育に取り組んでおられる民間団体が他にたくさんあるからです。しかし、未だ後退気味な性教育の現状を踏まえ、性教育だけに特化することなくジェンダーの視点を核に様々な切口で、多様な依頼ニーズに応えてきたSEANだからこそ、提案できることもあるのではないかと思い至ってお引き受けすることにしました。

多少言い訳がましくなりますが、「性」について科学的な専門性があると言いきれるほど多くの知識を持っているわけではない私たちNPOにできることは、幸か不幸か先を生きる生身の人間として子どもたちと関わるということと、子どもたちや子どもたちをとりまく現状から、共に学ぶということだけです。

一人の大人として体験している「性」と「生」を切口に、子どもたちに問題を投げかけ、「わたしがわたしであること」「わたしが大切にされ活かされること」、そして「わたしを大切するように他者をも尊重する」という「人権」の視点に立って、共に「性」について考え、子どもたち自身の主体性を促していくというのがSEANの教育実践方法です。これからも、その姿勢は崩さずに専門知識も増やしつつ、細く長く取り組みを続けていければと願います。

(文中の報告書等のお問合せやご依頼は、SEAN事務局:tel/ fax 072-684-8584 http://www.npo-sean.orgから申込可)

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