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依頼による執筆原稿(2006年)

『解放教育』2月号(明治図書刊)
「誰もがありのままの自分で」−SEAプログラムの実践から

(財)解放教育研究所

「誰もがありのままの自分で」

--SEAプログラムの実践から-- 
       

ジェンダーに関する人権教育の必要性

NPO法人シーン(SEAN/Self-Empowerment Action Network)は、大阪府高槻市を拠点に活動している非営利市民団体です。一九九七年、高槻市委託女性学級「かまどねこの会」で保育が必要になったことがきっかけで、保育サポートグループとして結成しました。

二〇〇一年には法人格を取得し、民間助成金の交付を受け、子育て中の母親を対象に「ジェンダー・フリーでの子育て支援事業」を実施しました。二週間期間限定の電話相談事業と、保育付のフリートークの場を提供し、子育てにおけるジェンダー(社会的・文化的につくられる性差)が母親の肩に重くのしかかっている現実に直面しました。

子どもの育ちには、多くの大人の関わりが必要不可欠です。にもかかわらず、子育ては母親の責任と考えられるジェンダーのもとで、父親も近所の人も幼稚園のママ仲間や相談機関までもが、母親を追い込む存在になってしまっており、母親たちは自信をなくし、不安と罪悪感を抱え、そのことが子どもたちに悪影響をもたらせているといった現状が相談内容から伺えました。

その取り組みから、「女は〜あるべき」「男は〜あるべき」といったジェンダーによる性役割から生まれる抑圧や差別・暴力に対する予防教育の必要性を強く感じるに至り、子どもも大人も誰もがありのままの自他を尊重し合える社会に向けての、プログラム開発に取り組むこととしました。

そして、二〇〇二年に、中学生を対象にした「ジェンダーと暴力」に関する人権教育プログラム(現SEAプログラム)を開発するために、再度民間助成金に申請し、ファシリテーター養成講座十三講座と公立中学校二校八クラスでパイロット版プログラムの出前授業を実施しました。

未就学児を対象としたプログラム

また、この年には未就学児を対象にしたオリジナルプログラムも、依頼に応じる中で開発しました。未就学の子どもたちには、パネルシアターで「あてっこ」や歌、手遊びなど楽しみながら、自分の考えを知り、お友達の考えに耳を傾け、共にジェンダーによる差別や偏見に気づいていくよう組み立てました。

4歳〜小学生くらいの子どもたちは、大人への憧れからか、より性役割を取り込みやすいようです。しかし、その取り込みやすさは、同時に柔軟さでもあり、性別によるとらわれからの解放も思春期の生徒たちよりも容易であるわけです。例えば、「女の子は野球はしない!」と自信をもって断言する園児がいても、「○○ ちゃんのお姉ちゃんは野球をやっている」という情報が入れば、すぐに考えを転換する事も可能です。

SEANの仲間である女性からこんな話を聞いたことがあります。「幼少期、昆虫が好きであったため、『変わった子』として周りから受け入れてもらえなかった。もし、自分が男の子なら『さすが、男の子!末は昆虫博士かもしれない!』と期待されたはずなのに...。」

そのように、期待や評価は性別によって異なり、その延長線上で自己否定やいじめなども起こっています。

未就学児のプログラムでは、四人の絵人形を登場させます。その子どもたちの名前や持ち物などを、子どもたちと「あてっこ」しながら楽しく学びます。四つのコップを登場させ、ピンク色のハート模様のコップの持ち主が、そのうちの一人の男の子のものであると判明した時、「男の子がそんなコップを、持っているのはヘンだ!」と園児から必ずと言っていいくらい「納得しない」といった意見が飛び出します。「このコップはこの子のお気に入りのコップで、おうちの人とお買い物に行ったとき自分で選んだコップなんだよ」と話すと、たいていの場合「それなら良い!」と満足気に納得してくれます。けれども、「やっぱり、男の子がそんなものを持つのはよくない」と、許せない事だと主張し続ける子どもも稀にいます。自分の大事にしているものを、お友だちからけなされたらどんな気持ちがするかを一緒に考えながら、誰でも自分の事は自分で決める権利があることに気づいていきます。

「性別」ありきではなく「個」ありきで

日常の社会では、「個」のあるがままより、「性別」を重要視することがよくあります。教育現場もまたしかりで、教職員の「ジェンダー」に関する研修の必要性を強く感じ、二〇〇三年にも民間助成金事業として、中学校五校二十クラスと高校三校五クラスで出前授業と、教職員等への研修十八講座を実施しました。また、授業実施前と実施後にジェンダーに関する意識調査を行い、報告書も発行しました。

 「最近は、男女平等が進んでおり、女子の方がむしろ元気なくらいで、男子をもっと触発すべきだ」という声も聞かれます。

 確かに、昔と比べれば女子は活発で元気になり、はっきり自分の意見を主張できるようになったようにも見えます。でも、なぜ、それをマイナスととらえるのでしょうか?また、男子生徒が元気をなくしているとしたら、「一人前の男であれ」といった過度の期待、まさしくジェンダーから生じるプレッシャーで元気をなくしているのだと言えないでしょうか。

 中高生を対象にしたSEAプログラムでは、「女に期待されること」「男に期待されること」について生徒たちに考えてもらうグループワークを行います。このワークは、大人を対象に実施しても、一部の例外を除きほぼ同じ内容の言葉が並びます。

 「女に期待されること」は、家事・子育て・行儀良く・気配りなどの「家」「従」「内」をイメージさせる内容が主で、「男に期待されること」は、稼ぐ・強さ・負けない・めそめそしないなど、女性との対比で見ると「社会」「主」「外」といったイメージが大半を占めます。期待されることとして両性に挙げられる内容は、「人として期待されること」なのですが、同じ言葉が上がってきたとしても、まだまだ、女性には「子育て」男性には「子育て参加」といったように、微妙にニュアンスが違うのが日本の現状です。

 男性に期待されていることを一まとめにいえば、資本主義社会の中で勝ち抜くことであり、女性に期待されていることは、その男性を支えることに集約されます。

 ある高校では、生徒の「女に期待されること」に関する意見の中に、「教養」という言葉と並んで「ある程度の頭の悪さ」という表現が出されました。「男に期待されること」には、決してあげられない的確な表現だけに、その表現を出してくれた女子生徒たちの悔しくも、しかしどこか冷ややかな主張が伝わってきました。

ジェンダーと暴力の関係

 少年院に収容される人員の性別内訳は、毎年ほぼ九対一で、加害行為を行う者は女子よりも男子の方が多いといった実態があります。また、DVの加害者も圧倒的に男性たちであり、毎年百二十〜百三十人の女性たちが、夫から殺されています。なぜ、暴力行為の加害者は、圧倒的に男性の方が多いのでしょうか?その現実をとらえれば、男子に安易に「男の強さ」を強要することが、いかに問題を含んでいるかが見えてくるはずです。

 生徒たちに実施した意識調査の中に、「もし、あなたがいじめられたら、どのような対応をしますか?」という質問があります。この質問に対して、「やりかえす」「我慢する」と答えたのは男子生徒の方が多く、「話し合う」「相談する」は女子生徒の方が多いという結果でした。自殺者の七十%が男性である事実をとらえれば、「弱音を吐くこと」や「負けないこと」「泣かないこと」を期待される男子は、相談することは負けてしまうことと捉え、心に抱えている悲しみやつらさ、憤りを誰にも打ち明けられないまま、自他への暴力という形で表現してしまうのではないかと危惧します。傷ついた心は癒されなければ、暴力の連鎖となってより弱いものへと向けられていくからです。

 いたわりや思いやり、非暴力の行動もまた連鎖していきます。「男は強く、女は優しく」といった性役割は、実は力関係による支配構造や暴力的解決策を肯定し、暴力を連鎖させていく社会につながっています。性役割ではなく、「人として、強く優しく」生きることを子どもたちが具体的にイメージできれば、自分も含めた個の多様性を尊重し共存していく非暴力スキルを身につけ、新しい未来を築き上げていくことができるようになるのではないでしょうか。

 中高校生対象のプログラムの中には、多様なセクシュアリティについて考える場面も盛り込んでいます。これまでにも、トランスジェンダーやホモセクシュアル、バイセクシュアルなど、自分のこととして感じ始めている子どもとの出会いもありました。

 しかし、日本社会に横行するセクシュリティに関する差別意識や偏見は、子どもたちの世界にも蔓延しており、自らのセクシュアリティを大事にしたいと思っても、それを容易に口に出せる状況はなかなかありません。ゆがんだ情報がメディアから流れる中、まず正しい情報を提供することもプログラムの中で重要視しています。

小学生を対象としたプログラムの開発

 二〇〇五年度には、小学生を対象にした出前授業の依頼があり、二校三クラスで試行版を実施しました。これまでの中学生対象SEAプログラムでは、ロールプレイ(寸劇)を通してジェンダーによる「男の強さ」から生まれる暴力の連鎖については盛り込んでいましたが、女の子の人間関係の問題には未着手でした。小学生版では、女の子の人間関係の問題として、自分の思いを出せずに相手の思いを優先させる中での、抑圧の連鎖のロールプレイも新たに導入しました。

男の子は「泣く」ことをよしとしてもらえず、「悲しみ」の感情を「怒り」に変えてしまう。女の子は「気配り」できることをよしとされ、「怒り」の感情は自分の中にしまい込み、我慢し過ぎる中で人間関係がいびつになってしまう。これに準じる形で中高生版にも、両性の特徴的な問題をロールプレイで取り上げ、自分の感情を受け入れ、自分や友達の心やからだを大切にする関係をつくっていくにはどうすれば良いのかといった内容を、盛り込み改訂版を作成しました。

 「女の子だから優しい、男の子だからたくましいじゃなくて、女の子もたくましい、男の子も優しい、みんな一緒でいいと思いました。わたしは自分の思ったことをしっかりと相手に言いたいです。自分の思ったことをためといたらイライラする気持ちになるから思ったことははっきり言わなだめなんだと思いました。だからわたしは、自分の気持ちをはっきり言いたいです。」

「ぼくは今日は何度も男の子と女の子のことをいろいろ分かりました。友だちがいじめられて泣いていたら、なぐさめたいです。ぼくはいやなことがあったら家の人や先生に相談します。」

これは小学校四年生の子どもたちが、書いてくれた感想です。小学生対象の出前授業は、四十五分という短い授業時間ですが、外からやってきた第三者の大人と学ぶ授業なので、通常とは違う特別な時間であるだけに、子どもたちにとってはとても印象に残るようです。

第三者の大人が実施する意味

どの学年のどの授業でも、その子たちの背景を知らない、また点数をつけるなど評価する立場に無い、第三者の大人たちから尊重されながら進められていく授業は、子どもたちにとっては印象深く、大きな気づきの機会になります。また、教職員にとっても、客観的に子どもたちのジェンダー観や子どもたち同士の力関係を見る絶好の機会となり、この場を教職員のみなさんが最大限に活用すれば、その後のクラス運営に多いに役立つものになります。

 スタッフにとっても、プログラムを実践し子どもたちと向き合うことは、自分自身と向き合い自分の価値観とも出合うときです。

 子どもたちの反応からたくさんの元気をもらうときもありますし、これでもかと手に負えない状態の子どもたちに、エネルギーを搾り取られる思いがするときもあります。すぐには届かない思いも、子どもたちの心の片隅にほんの少しでも残っていれば、いつかその引き出しが役に立つときがくると信じて活動を続けています。

 「男らしく、女らしくいくとうことは、なんとなく差別みたいにみえました。でも、世界全部がジェンダー・フリーにはできないと思いました。自分もたまに力がないといわれて、『男らしくない』と言われています。やはり男は力をつけないとだめだと思っていましたが、SEANの人たちが来て、ありのままの自分を生きるといってくれたのでうれしかったです。」
 
 「私は女の人は家庭を守って、男の人が会社に行ってお金を作る役をやると思っていたから、お母さんがわかれるときも、女として最低と思ったけど、お母さんの生き方も理解していこうと思った。私が大人になったら、ジェンダーではなくて自分のありのままの生き方ができるジェンダー・フリーをもっといろんな人にわかってもらえたらいいと思う!って思ってる。今回の総合は人の生き方について教わって、すごく大事な授業やった。」

 この二つは、中学一年生の子どもたちの授業を受けた後の感想です。

 実施後の感想には、「おもしろくなかった」「意味がわからなかった」といった感想も、稀に見られます。ワークショップで行う授業は生もので、生徒同士が大喧嘩した日のワークや、試験明けで開放された状態のときのワーク、あるいは教師から叱られ大人に対して敵対心をたくさん抱えた状態のときのワークなどもあります。

 いかなる状況であっても、子どもたちとの出会いは、限られた時間しかありません。ですから、より簡潔で、よりインパクトがあるプログラムであるよう内容は常に検証し、そこに出向くスタッフは常に研修し、互いを信頼し合えるようチームワークをつくっていく必要性を強く感じています。

これからの活動に向けて

 プログラムの開発や、継続的普及などは、金銭的支援を得なければ維持できないなど、課題も多くあります。しかし、「子どもたちをこれ以上、被害者にも加害者にもしない社会をめざしたい」、「あるがままの個が活かされる社会を実現したい」、その思いを持続しつつ、今後も息の長い活動を展開していきたいと思っています。

 SEAプログラムは、未就学児版(五十分/二十名まで)・小学生版(四十五分〜九十分/四十名まで)・中高生版(二百分/四十名まで)などがあります。また、教職員を対象に「ジェンダーと暴力」をテーマにした教育セミナーも請け負っています。NPO法人SEAN事務局(月〜金:十時〜十七時station@npo-sean.org URL http://www.npo-sean.org)まで、遠慮なくお問合せください。

 民間の活動は、教育機関との協働や、運営を維持していくための財源によって支えられています。みなさん、ご理解、ご支援とご協力、並ぶに依頼の方もどうぞよろしくお願いいたします。

NPO法人SEAN代表 遠矢 家永子

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