11月中旬、最高裁判所は、抽選で選んだ市民に「あなたは来年の裁判員の候補者に選ばれました」と知らせる郵便を送ります。私はこの通知を、2008年に受けとりました。以来、裁判や司法について考えるようになり、市民の立場で活動を続けています。
裁判員裁判の候補者は、衆議院選挙の名簿から抽選で選ばれます。2016年に選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられた時は「裁判員は20歳から」という例外規定がついたのですが、これが削除され、18歳から裁判員に選ばれることになりました。そして、これまでは罪を犯した人が20歳未満の場合は「少年」として取り扱われていたところ、選挙権や成年年齢の引き下げに伴って少年法が改正され、重大事件などでは18歳から成年同様に取り扱われることになりました。これからは18歳の裁判員が、18歳の被告人の人生を決める裁判を担当する可能性があるわけです。裁判員に、「わからないから保留」という選択肢はありません。熟考し、判決を決める一票を投じるのが役割です。
年齢に関連して、他に「性交同意年齢」が、今、議論になっています。刑法177条は「13歳以上の者に対し暴行や脅迫を用いて…性交等…をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交した者も、同様とする」と定めています。暴行や脅迫がなく「同意した」と言えるのはどのような場合か。何歳になれば同意できるのか、などが論点です。
「Yes means Yes」。すなわち、明確にYesと意思表示した時以外はすべて同意のないものとして処罰すべきという考え方から不同意性交等罪を新設すべきという意見がある一方で、それでは冤罪を生む恐れはないかという反対の声もあります。また、刑法177条は「13歳未満の者は、性的な自己決定の能力を有しない」ことを前提としているため、16歳など、性交同意年齢を引き上げてはどうかという議論もされています。
私たちは何歳になれば、自分の意思を表明する能力や責任を持つことになるのでしょう。あなたは、オトナとして自己決定ができるのは何歳からだと思いますか?「○歳から」と法律で決めたとしても、誰もが自動的にオトナになれるわけではありません。市民社会を担う一員になるためには、法教育、人権ベースの性教育をはじめ、学科以外にも学ぶべきことがたくさんありそうです。
私たちが子どもの「No」に耳を傾け、主体性を育み、自己選択・自己決定を尊重する。その積み重ねが必要です。そして、この社会が、一人ひとりの選択と決定を尊重し、お互いの声を尊重することが当たり前のことになっていないと、子ども達は息苦しい中で空気を読む知恵を求められても、自分の意見を持つ大人になりません。
今年もそろそろ、来年の裁判員候補者に通知が届く時期です。候補者になった人は、ぜひ裁判に参加してください。世代も立場も、多様な人が参加し、多様な声が反映されることが、お互いに暮らしやすい社会に近づく一歩です。自分の意見を持ち、周囲に伝えることに慣れていないと、選挙や裁判の時になって意思表示するのは難しいと感じるかもしれません。ふだんから、自分の声に耳を傾け、お互いの立場の違いを尊重して伝えあう対話がある。そんな関係性を大切にしたいと思います。(監事 川畑惠子)